【声明】G7広島サミットでも保健の成果文書発表:C7(市民7)国際保健ワーキング・グループ、これらを評価する第1次声明を発表

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2023年5月19-21日、広島市の宇品島でG7広島サミット首脳会合が開催され、国際保健については、G7首脳コミュニケ(日本語仮訳、原文はこちら)の第33-35段落で言及されたほか、「感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスに関するG7広島ビジョン」(日本語仮訳、原文はこちら)という文書が発表されました。外務省ウェブサイトのG7広島サミット概要も参照ください。

これについて、C7(市民7)国際保健ワーキング・グループとして、これらの文書を評価する第1次声明を発表しました。

この第1次声明では、広島首脳コミュニケ等において、国際保健の課題が網羅的・包括的に記述されていることについては評価しつつ、G7としての主体的な政治的・資金的コミットメントが明確でないこと、G7として打ち出そうとしている政策やイニシアティブも、時間切れで中途半端に終わっていることを指摘し、今後のプロセスを明確化するように求めています。

また、パンデミックに関わる医薬品への公正なアクセスのための枠組みについても、特にグローバル・サウスへの技術移転・技術共有が、企業等の「自発的な協力」にとどまっていることに懸念を表明し、公正なアクセスの実現のために、より積極的な取り組みをするよう求めています。

第1次声明のPDFファイルはこちら(日本語英語

 

 

G7広島首脳コミュニケ(国際保健部分)および「感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスのためのG7ビジョン」に関するC7国際保健ワーキング・グループ代表団の第1次声明

2023年5月20日

 

5月19日から21までの3日間、広島市南部の宇品島で開催されたG7広島サミットでは、「G7首脳コミュニケ」の第33-35段落が国際保健に当てられたほか、特にパンデミックと医薬品アクセスの課題に関連して、「感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスのためのG7ビジョン」が発表されました。広島サミットの1週間前に長崎で開催されたG7保健大臣会合に続き、G7広島サミットにおいても、包括的・網羅的な内容で国際保健に触れたコミュニケが採択されたことを、C7国際保健ワーキング・グループとして、まずは評価したいと思います。そのうえで、私たちは以下の点について注意を喚起します。

 

1.感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスについて

 

「感染症危機対応医薬品等(MCM)への公平なアクセスのためのG7ビジョン」(以下「MCMビジョン」とする)は、G7が新型コロナウイルス感染症(COVID-19)を教訓に、MCMに関する「エンド・トゥ・エンド」の地球規模のエコシステムを構築し、MCMへの公平なアクセスを実現するべく努力すると明記されています。また、MCMへの不公平なアクセスを経験した国々に、パンデミックへの対応をデザインする主導的役割があることを認識するとも明記されています。ところが、次の段落では、この「エコシステム」が依拠するのはあくまで「自発的協力」であると定義されています。ここに大きな落とし穴が存在しています。

 

COVID-19では、膨大な公的資金の投入によって開発されたワクチンなどの医薬品の途上国への技術移転や安価な流通は、あくまで知的財産権を持つ先進国の製薬企業の「自発的協力」に委ねられ、巨額な公的資金でワクチンを買い占めた先進国の「ワクチン・ナショナリズム」と相まって、グローバル・サウスを含めた「公平なアクセス」は実現しませんでした。その結果、世界貿易機関(WTO)で、最大65か国が共同提案国となって「COVID-19に関わる知的財産権の免除」が提案され、グローバル・サウスへの技術移転・技術共有と地域レベルでの生産能力強化が、G7も認める「パンデミックへの備えと対応」の最大の課題として認識されるようになったのです。グローバル・サウスの国々は、先進国の「慈善」を求めているわけではありません。技術の共有と生産能力の強化により、パンデミックに対する自らの国民の健康を自ら守る権利を求めているのです。G7がグローバル・サウスを含む各国のパンデミック対策への「主導的役割」を称揚するのであれば、「エンド・トゥ・エンド」のMCMエコシステムは、少なくとも公的資金により開発されたMCMについて、これらを地球規模の公共財とすべく、知的財産権の免除等を含む、より積極的な技術移転・技術共有のメカニズムを含んだものでなければなりません。

 

公平な医薬品アクセスやMCMエコシステムは、現在、パンデミック条約や国際保健規則の交渉、およびCOVID-19パンデミック時に組織された「ACTアクセラレーター」(COVID-19関連製品アクセス促進枠組み)の後継枠組み作りに向けてWHOやG20を舞台に行われている交渉において議論されています。G7は、この「エコシステム」のベースを「自発的協力」に限定するという自らの立場を、これらの交渉に杓子定規に適用するべきではありません。一方、「コミュニケ」の第35段落においては、G7はこの「MCMビジョン」を踏まえて「公平なアクセスのためのMCM供給パートナーシップ」(MCM Delivery Partnership for Equitable Access: MCDP)を「設立する」と記述されていますが、この「パートナーシップ」がいかなる枠組みなのか、明らかにされていません。G7はこの「パートナーシップ」の詳細について、早急に明らかにする必要があります。また、同段落では、健康危機において早期にMCMを供給するための国際機関の資金流動性の確保のための具体的な方策について、G7として、「この夏に」開発資金供給者と共に検討することが誓約されていますが、これについても、8月に開催されるG20財務相・保健相会合やG20保健大臣会合との関係を含 めて、より明確に示す必要があります。

 

2.国際保健アーキテクチャー及びUHCについて

 

「G7広島首脳コミュニケ」第33段落では、主に国際保健アーキテクチャーについて記述されています。包括的かつ網羅的な記述は評価できるものの、内容面では以前からのコミットメントの再確認か、充分に具体性のない誓約に終始している印象があります。パンデミック時における「サージ・ファイナンス」についても、その方策を「徹底的に検討する」とするだけで、内容は先送りとなっています。残念なことですが、G7広島サミットが開催された5月半ばという日程は昨年のG7よりも一カ月以上早く、49年間続くサミット史上でも6番目に早い日程で、G7といえども、多国間で共有されたイニシアティブを持続可能かつ予測可能な形で形成するには、あまりにも準備期間が短すぎます。地球規模課題の形成におけるG7の重要性に鑑みれば、G7首脳サミットに向けては、多国間でのイニシアティブを熟成させるに十分な期日を確保し、また、サミット後のイニシアティブ形成のためのプロセスも明確に示す必要があります。一方、同段落の最後で、保健における市民社会の役割について称揚する記述を設けたことについて、市民社会としてこれを歓迎し、全ての人のより健康な未来のために、G7とも協働することを、私たちとしても再確認します。

 

「G7広島首脳コミュニケ」第34段落では、主にユニバーサル・ヘルス・カバレッジ(UHC)について記述されています。長崎G7保健大臣コミュニケおよび同時に発表された「UHC行動アジェンダのためのG7グローバル計画」に比べ、広島首脳コミュニケにおけるUHCの書きぶりは、人権としての保健、また、最も脆弱なコミュニティに焦点を当てた「誰も取り残さない」UHCという視点が後景化している印象があります。保健サービスへのアクセスにおいて女性が不利な立場にあることについても言及がされていません。また、エイズ・結核・マラリアの終息およびグローバルファンド(世界エイズ・結核・マラリア対策基金)の第7次増資について明記されたことは評価できる一方、長崎G7保健大臣コミュニケ同様、非感染性疾患(NCDs)や「顧みられない熱帯病」(NTDs)に関する記述は充分なものとはなっていません。包括的な性教育を推進する必要性についての言及がないことは残念です。また、若者の精神保健の問題については、緊急に対処すべき様々な課題が含まれていますが、これについて言及がないことも、深刻な問題といえます。新たに記述された、UHCの実現のための「合計480億ドルの財政的貢献」についても、期間の定めがなく、また、民間セクターによる資金拠出を含むものとされており、G7の新たな資金的貢献の規模が明らかになっていないなど、課題があります。G7は資金拠出について、より透明かつ責任ある誓約を行う必要があります。なお、35段落の最後において、認知症について詳述されていることについて、私たちはこれを評価しつつ、世界的に高齢化が加速している現状を踏まえ、高齢化に関わる医薬品や医療・ケアへのより公平なアクセスに向けて、多国間の政策や資金動員の在り方について、より積極的な取り組みを求めるものです。

 

以上