【政策提言】保健医療分野における気候変動国家戦略

· 政策提言,活動報告

G7市民社会コアリション2023の会員として活動していた日本医療政策機構より、掲題の案内をいただきましたのでご紹介します。

<< ここから >>

broken image

当機構は2004年に設立された非営利・独立・超党派の民間医療政策シンクタンクです。市民主体の医療政策を実現すべく、多様なテーマで政策提言しております。昨年は、C7のグローバルヘルスワーキンググループにて、プラネタリーヘルス領域の提言を取りまとめ、長崎保健大臣会合などに対して働きかけをいたしました。

昨年の動きを引き継ぎながら、日本医療政策機構プラネタリーヘルスプロジェクトは、「保健医療分野における気候変動国家戦略~気候変動に強く、脱炭素へ転換する保健医療システムの構築に向けた提言書~」( https://hgpi.org/research/ph-20240626.html )を公表しました。この提言書は、日本の保健医療システムが気候変動に対して強靭さを高め、脱炭素に転換し、持続可能性を高めるための具体的な施策を示しています。

 

プラネタリーヘルス課題の一つである気候変動は、21世紀最大の公衆衛生上の課題です。気候変動は気温及び気象パターンの長期的な変化をさしていますが、その原因が人間の活動に伴う温室効果ガス(GHG)排出であることに疑いはありません。過日行われた、G7プーリアサミット2024の首脳宣言においても、国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)での「COP28UAE 気候・健康宣言(COP28 UAE Declaration on Climate and Health」についてハイライトされました。また、2024年5月の77回世界保健総会(WHA: World Health Assemblyにおいて、持続可能で強靭な保健医療システムの構築を目指す国際的な取り組みを目指す「気候変動と健康に関する変革的行動のためのアライアンス(ATACH: Alliance for Transformative Action on Heath」参加について日本政府を代表し厚生労働省は発表いたしました。また、6月21日に公表された「経済財政運営と改革の基本方針2024(骨太の方針)」においても、ATACHの取組の推進が盛り込まれました。

保健医療分野からも環境負荷が生じていることを勘案し、多分野横断的、省庁横断的な取り組みを実施するうえで、地球の健康と人の健康を守るためにも、ロードマップを提示することが不可欠です。

本国家戦略適応では、適応策と緩和策を提示するにあたり、以下の4つを目的と5つの原則を掲げました。

【目的】

気候変動に強い保健医療システムを構築し、気候変動による負の影響から日本に居住する人々の健康やウェルビーイングを守るための対応能力を高める

  • 地域や文化に合わせた、質が高く公平な保健医療サービスを提供し、気候が変動するなかでも保健医療サービスや地域コミュニティが正常に機能することを支援する。

サプライチェーンを通じた温室効果ガス排出量が正味ゼロとなる保健医療システムを構築し、2050年のカーボンニュートラル達成に貢献する

  • 保健医療システムから生じる環境への負荷を最小限にし、政府の排出削減目標である2050年カーボンニュートラルを達成する。

気候変動に強く持続可能な保健医療システムと社会を構築すべく国際協力を進める

  • 国立環境研究所が有する気候変動適応情報プラットフォーム等を活用し、気候変動リスクに関する科学的知見の充実、支援ツールの適用、適応に関する能力強化の取組を、各国や関係機関との協働により推進する。
  • 我が国における科学的な知見の共有や国際的基準の開発に貢献する機会を模索し、日本が近隣諸国と協力し、気候変動への対処を進め健康促進を図る。

健康と気候変動の相互依存的な関係を認識し、政府全体で行動することにより、健康で気候変動に強く、持続可能な地域社会づくりを支援する

  • 全ての政策に健康を位置付けるというアプローチを掲げ、GHG排出削減がもたらす健康上のコベネフィットを社会全体で促進する。

 

【原則】

プラネタリーヘルスの概念を基礎に位置づける

  • 地球生態系の健康と、人の健康と人間社会の健全性という2つの健康を考え、両者の相互依存的な関係を明らかにし、人間が賢く自然を管理することで持続可能となるような方策を研究・実践を通じて模索する。

集団の健康増進と疾病予防(パブリックヘルス)を重視する

  • 集団の健康増進・疾病予防はこの戦略全体を通じて緩和、適応の根幹を貫く原則であり、一次予防から三次予防まで、全ての段階において強力に推進する。
  • 気候変動により発生する自然環境や人間社会系における変化は、健康の環境的決定要因や社会的決定要因の観点から捉える。
  • 適切な予防策を通じて新規疾病発症や慢性疾患増悪の予防を図ることは、医療提供の必要量減少によるGHG排出減少及び健康上のコベネフィットに繋がる。

エビデンスに基づく政策立案を行う

  • 気候変動に対処する政策は、入手可能なデータ、エビデンスを最大限活用し、最新の科学的知見を踏まえて行い、エビデンスが明らかではない不確実な領域に対しては慎重に政策立案を行う。
  • 気候変動が健康に与える影響、保健医療システムにおける活動が人々の健康や人間社会に与える影響の両方向に関わる研究を促進させ、得られた知見を政策立案に反映させる。

健康を享受する機会を保障し、健康に関する公平を確保する

  • 健康を享受する機会は誰もが等しく保障されるべきであり、いかなる人も最大限達成可能な身体的、精神的健康を享受する機会を有する。
  • 気候変動に対する脆弱性を有する層(高齢者、小児、非感染性慢性疾患を有する者、精神疾患罹患者など)に配慮し、これらの人々が健康な人々と同様に健康を享受できるような配慮がなされねばならない。

日本古来の自然観との調和を図る

  • 日本古来の自然観は、人間と自然の区別の曖昧さ、自然の移り変わりや季節の循環を重視する円環的な特色、また時間や出来事を直線的ではなく循環として捉える循環的な見方といったもので特徴付けられ、自然は畏れ敬い共存するものであるという見方を基本とする。
  • 政策立案に際し、 プラネタリーヘルスの考え方を理解・解釈しつつも、人間と自然の関係性に関して日本人独自の自然観が反映されるような政策づくりを意識する。

 

本提言が政策立案者や関係者の一助となり、プラネタリーヘルス領域の対策に向けて、政策の進展が図られることを期待しています。詳細は末尾のPDFファイルをご覧ください。

また、下記類似領域についてもご参考まで共有させていただきます。

----------------------------------

【参考】