【開催報告】「G7市民社会コアリション2023」設立記念イベント

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2022年7月8日(金)、G7市民社会コアリション2023(以下、コアリション)の設立を記念するイベントG7広島サミットに向けて:変革の時代における市民社会の提言をオンラインで開催しました。本イベントの全体司会は新田英理子・SDGs市民社会ネットワーク(以下、SDGsジャパン )事務局長が務め、90名を超える方々にご出席いただきました。

開会挨拶では、木内真理子・G7市民社会コアリション2023 共同代表、ワールド・ビジョン・ジャパン 事務局長が、日本の市民社会に対してコアリションへの参加を広く呼びかけました。また日本政府・外務省に対しては、これまでの国際約束の実現、および市民社会との引き続きの協働を依頼するとともに、コアリション幹事団体が特に重視する6つの分野(ウクライナを含む人道危機、気候変動、新型コロナウイルス感染症、食料・資源価格の高騰、SDGsの達成、平和・核兵器廃絶)の紹介がありました。

続いて、鈴木浩・外務省外務審議官、G7シェルパより、2023年議長国からの挨拶を賜りました。コアリション設立についての祝辞を頂戴したのち、共同代表を交えた外務省での面会・意見交換が有益であったことを述べられ、またG7エルマウ・サミットでの主な議論内容をご紹介いただきました。以下に鈴木シェルパの発言をまとめます。

【食料安全保障】

G7として、食料安全保障のためのグローバル・アライアンスを通じ、世界の食料・栄養安全保障を強化する。45億ドルを追加で提供し、ウクライナでの生産・輸出強化支援を行う。日本からは計約2億ドルの支援を新たに実施すると表明。

【国際保健】

G7として、新型コロナウイルス感染症を克服するための取り組みを継続し、将来起こりうるパンデミックへの備えを行うことを確認。日本からは、COVAXに対する計最大15億ドルの拠出にコミットしており、すでに4,400万回分のワクチンを現物供与済み、また実際のワクチン接種を推進するためのラストワンマイル支援を計77か国・地域に実施していることを紹介。

【環境・気候】

パリ協定の「1.5℃目標」に整合的である限られた状況以外において排出・削減対策が講じられていない国際的な化石燃料エネルギー部門への新規の公的直接支援を、G7として2022年末までに終了する。国内でも、排出削減対策が講じられていない石炭火力発電のフェーズアウトを加速化させる。また、2035年までに電力部門の脱炭素化を達成することに貢献していく。日本政府からは、COP26において5年間で官民合わせて最大700億ドルの支援を行う用意があることを紹介。ロシアのウクライナ侵略以降の気候変動対策では、カーボンニュートラルの実現とエネルギー安全保障の強化に同時に取り組むことを強調。「アジア・ゼロエミッション共同体構想」をアジア各国と共に推進することで、アジア各国が多様な道筋を通じてエネルギー移行を進め、脱炭素化・強靭化に取り組んでいくことを支援することを表明。

【経済】

ロシアのウクライナ侵略がエネルギー・食料価格の高騰を引き起こしているとの認識を確認し、G7として世界経済の安定に貢献するとともに、生活コストの上昇に対処することで一致。岸田総理からは、今後も経済状況に応じて機動的な経済財政政策を行い、持続的な経済成長を実現する決意であること、とりわけエネルギー・食料価格高騰についてはエネルギー価格と食料品価格に集中し、国および地域レベルで対策を講じていることを紹介。併せて、サプライチェーンの強靭化、公平な競争の場を確保することについても首脳間で一致。

【ジェンダー平等】

ドイツがG7にジェンダー平等分野を組み込んだことを日本も支持。日本としても2022年12月3日に第6回国際女性会議を東京で開催する予定、国内外のジェンダー平等の実現と女性のエンパワーメントの促進を進めると表明。

【核兵器のない世界の実現】

G7として、ロシアの核兵器使用を示唆する発言を非難することで一致し、核兵器のない世界の実現へ向けたコミットメントを再確認。岸田総理は、広島ほど平和へのコミットメントを示せる場はないとし、来年の広島サミットでは、武力兵器・核兵器による脅し・国際秩序転覆の試み全てを断固として拒否するというG7の意思を示したい考えを表明。

2023年G7議長国からの挨拶の最後には、ロシアによるウクライナ侵略により国際社会が歴史の岐路に直面する中、これまで以上に多様なアクターとの連携が不可欠であること、また中でもNGOは最も影響を受けやすい人々に寄り添い、現地の支援ニーズに対し迅速かつ細やかな対応をすることが可能であり、人間の安全保障に基づいた「誰ひとり取り残さない」支援を実現するうえでその重要性がますます高まっていることが指摘されました。特に、鈴木外務審議官と交流のあったペシャワール会の中村哲さんは、上記のような市民社会の強みをまさしく体現された方であった、とのお話もいただきました。日本政府は市民社会をはじめ様々なエンゲージメントグループとの連携・対話を一層強化し、その知見・経験を大いに活用し、国際社会と緊密に連携して危機に立ち向かっていきたい旨の決意表明がありました。

●G7エルマウ首脳声明はこちら

続いて、セッション1・2の進行を務める堀内葵・JANICシニア・アドボカシー・オフィサーから、2022年5月に開催されたドイツC7サミットの様子を紹介しました。

●ドイツC7政策提言書はこちら

セッション1では、3名の登壇者より「G7が取り組むべき課題」について発表いただきました。

【国際保健】稲場雅紀・GII/IDI懇談会NGO連絡会 代表

コロナ下では世界全体で感染を抑え込まなければならないものの、現在は富裕国と貧困国の間で格差が見られる。先進国・途上国を問わず都市貧困層が最も多く命を失った。この状況を克服するためには、現在の社会の在り方や、知的財産権を中心とする経済システムをいかに変革していくかという視点がパンデミック予防・対策において重要になり、この点において責任を負うG7に対して働きかけを行ってきたのが、C7国際保健ワーキンググループ。日本で開催されるG7サミットにおいては、パンデミック対策・対応のためのグローバルなメカニズムの構築において「誰も取り残さない」視点を取り入れること、また保健に関するレジリエンス低下へアプローチすること、さらにはユニバーサル・ヘルス・カバレッジを実現することの3点が重要である。

 

【気候変動・環境】遠藤理紗・「環境・持続社会」研究センター 事務局次長

気候変動対策をめぐる国際・国内状況として、COP26でのグラスゴー気候合意ならびにIPCC報告等を紹介。2023年のG7サミットにおいては以下の課題に取り組むべきである。

  • 化石燃料からクリーンエネルギーへの転換と公正な移行の実現。
  • 世界中の温室効果ガス削減に向け、G7議長国としての日本が、G20各国や世界の国々に連帯を促すこと。
  • 気候変動による悪影響や被害を防止・軽減する適応策を推進する「政策・野心・行動」をどう強化すべきかの議論。
  • 国内外で気候変動の影響・被害を受けやすい様々なステークホルダーの声を聞き、適応策を実施すること。
  • 生物多様性、持続可能な食糧システム、循環型社会についての議論。

2022年ドイツC7気候・環境正義ワーキンググループの提言を踏まえ、環境問題と社会・経済問題との関連性を考えつつ、これまで気候変動対策に参加できていなかった人々の声を拾い上げ対策を進めることが急務である。


【経済】内田聖子・アジア太平洋資料センター 共同代表

既存の経済システムでは一部の国・企業・富裕層のみが恩恵を受ける状況が生じており、様々な分野で悪影響が見られ持続不可能であるため、この経済システムを変革していく必要がある。あらゆる課題に経済は関わりがあることを踏まえ、2023年のG7サミットでは以下のアジェンダ設定が求められる。

  • 歯止めのない利益を追求する経済のグローバル化に対する国際・国内的な規制の設定。
  • 持続可能で、地球と人々を尊重し、誰ひとり取り残さない経済システムへ向けた、グリーンで公正な移行。
  • 経済政策に関する民主的な意思決定と、市民社会の参加・提言。


続いて、セッション2では4名の登壇者から、「G7が取り組むべき課題」について、主に国内で活動する団体としての視点を交えた提言がありました。

【ジェンダー平等】櫻井彩乃・#男女共同参画ってなんですか 代表、公益財団法人ジョイセフ I LADY.ディレクター

日本の若者の声から見えてきた、ジェンダー平等への取り組みの必要性について説明。日本のジェンダーギャップ指数が低いこと、ならびにG7エルマウ・サミットで岸田総理がジェンダー平等の重要性を表明したことを踏まえ、ジェンダー平等に向けてG7が取り組むべき課題は以下の3つ。

  • あらゆる人の「性と生殖に関する健康と権利」(SRHR)達成:ジェンダー・SRHRは、現在の書きぶりから後退させないこと。
  • 政策過程への若者参加:困りごと・不安を当事者が訴え、制作反映できるよう、若者の参画機会拡大を目指す。
  • 多様性と包摂・交差性の視点:具体的な資金提供と測定可能な定量目標の設定。

地方に在住する方々(特に若者)に対する参加機会を保障することや、G7の開催意義を周知することも非常に重要である。



【核なき世界】渡部朋子・ANT-Hiroshima 理事長

核兵器が再度使用される脅威に直面している現在、被爆者に会って直接その話を聴いてほしい。正しく核兵器を知ってほしい。また、「グローバルヒバクシャ」は差別され弱い立場に置かれていることを知ってほしい。核兵器禁止条約に日本政府は参加していないものの、その6条・7条には、核被害者への援助と環境回復そのための国際協力が定められている。日本の市民社会の知見を活かし、分野・世代・国籍を超えてこれを達成したいと願っている。



【教育】李炯植・Learning for All 代表理事

国内外の子どもたちは様々な困難(自殺・不登校・虐待・経済困窮・紛争・感染症等)に直面しており、「子どもの権利の実質的な保障」を追求することが非常に重要である。主権者である子どもたちとともに、形式的ではない方法で社会を作っていくことが必要であり、そのためには以下4つのアクションが求められる。

  • 子ども・家庭を支えるための政策予算の抜本的な拡充。
  • 子どもの意見表明権の尊重と社会参画。
  • 困難のある子どもたちの包括的支援体制構築。
  • ウクライナ危機・コロナウイルスパンデミックの影響を受ける子どもへの支援。



【孤独・孤立対策】大野覚・茨城NPOセンター・コモンズ 常務理事・事務局長

孤独・孤立の社会的背景として、日本では「コロナ禍」以前から「家族以外の人」と交流がない人は米国の5倍・英国の3倍存在しており、他のOECD諸国と比較しても孤独・孤立を感じる社会であったことに加え、「コロナ禍」において孤独・孤立を感じる人々が大幅に増加した。国内市民社会の孤独・孤立への取り組みと、政府が設置した孤独・孤立対策を紹介。官民連携でこの課題に対処する必要性と、市民活動団体が地域の活動により参加することこそが孤独・孤立の予防に寄与する。



最後にJANIC堀内葵から、G7市民社会コアリション2023の役割を案内しました。G7のエンゲージメント・グループであるC7での日本の市民社会の活躍を後押しすべく、本コアリションでは、言語面をはじめとした様々なサポート・情報共有を提供していく旨を説明しました。



最後に、松原裕樹・G7市民社会コアリション2023 共同代表、ひろしまNPOセンター 事務局長より閉会挨拶がありました。G7に対する最終的な提言のみに着目するのではなく、C7でのプロセスを通じ、登壇者から指摘のあった各分野での課題を国内外の多様なアクターと議論していく決意があることが表明され、閉会となりました。

イベント中にはZoomのチャット機能を利用し、参加者から提言・提案等が数多く寄せられました。「G7の場で扱われるべきトピック」について出た意見を、一部ご紹介します。

  • 新型コロナウイルスを含む感染症に関する医薬品の継続的な研究開発、新型コロナウイルス感染症でより深刻化した薬剤耐性(AMR)対策
  • 肥満と非感染性疾患(NCDs)の急速な深刻化
  • グローバルヘルス(環境変化に備える医薬品などの研究開発)と環境との関係性
  • ワクチンアパルトヘイトの解消
  • 気候危機への対策強化、平等なエネルギーへのアクセス権確保、ロシア産化石燃料依存からの脱却と再エネ・省エネの拡大
  • NOx、SOx、PM2.5、水銀など大量の大気汚染物質を排出する石炭火力の規制
  • 大気汚染に起因する健康被害
  • SDGsの達成に向けた「エコロジカル・フットプリント」の考え方の浸透
  • 食料安全保障と食料主権
  • ビジネスと人権(児童労働、強制労働など)、気候変動(土着の農業生産方法から産業化への移行)、貧困、国際保健(栄養のある食事)など、分野を越えて食糧の生産プロセスに関わる脆弱な立場に置かれる方々の権利を尊重するシステム構築(貿易における政治的関係も含む)
  • 知的財産権保護の制度を活用した「農と食の支配」の課題への対応
  • 国家レベルでの実施が期待される食料安全保障のための取り組みを、グローバルサウスを含む世界の市民レベルに落とし込むこと
  • 特に中低所得国における高齢者が、パンデミック、生活習慣病、国際保健、経済分野において脆弱な立場に置かれやすいことをどう解消するか
  • LGBTQI+への差別禁止
  • 子ども・若者が大きな意思決定のプロセスに参画できていないという課題
  • 物理的安全・心理的安全の保障(安全に暮らす権利)、大事な人と暮らすことの保障、大事なつながりから排除されない環境、遊びと学びの権利の確実な保障、心のケアやトラウマタイズされる危機への予防

G7市民社会コアリション2023に関するお問い合わせは、共同事務局までご連絡ください。

特定非営利活動法人 国際協力NGOセンター janic-advocacy [@] janic.org(堀内)

●コアリションへの参加はこちらから受け付けております。